コーグル
オーストリア南部スロベニア国境沿いに位置する、美しい葡萄畑と伝統的なワイン酒場が並ぶ国内有数の銘醸地、南シュタイアーマルクにKögl / コーグルのワイナリーは所在しています。
1970年代に標高480メートルの場所に土地と築350年以上の家屋を購入し、畜産と葡萄の混合農場から事業をスタートしました。1970年代から1980年代は主に近郊のワイナリーに葡萄を販売することがメインでした。
そして、転機が訪れます。1993年に近郊のワイナリーが葡萄の過剰在庫を抱えた理由から葡萄のキャンセルが相次いだのです。そのタイミングでステンレスタンクを借りてワイン作りをしたところ、地元のコンクールで賞を受賞した為、本格的にワイン作りの道を歩むことになります。
現在のオーナーは初代の孫にあたり、現在二児の母であるTamara Kögl / タマラ・コーグルで、彼女は大学で醸造学を学んだのち、ヴァッハウの生産者Hirtzberger などで経験を積み、25歳でワイナリーを引き継ぎました。
タマラは、綺麗な山岳地帯、このエリア特有の急斜面の葡萄畑、素晴らしい自然に囲まれた環境の南シュタイアーマルクで育ちました。そうした環境の元、自分が責任を負う土地をできる限り大切にしたいという思いと、先祖から受け継いだものを、健全で豊かな状態で次の世代に繋いでいきたいという考えから、ビオディナミ農法を実施し、自然で介入の少ないワイン作りへ進んでいきました。
現在、所有している葡萄畑は約10ヘクタールで、全ての葡萄畑は急斜面にあります。その中には傾斜率80%に達する場所もあり、敷地内には森、池、リンゴ園、羊の放牧地も広がり、まさに自然の宝庫のような環境です。
葡萄畑は全てビオディナミ農法にてDemeter認証を取得、葡萄に敬意を払い手摘みで収穫・選別、全て野生酵母での発酵、地中海性気候の影響により、冷涼な気候と昼夜の寒暖差に恵まれているため、香り豊かで綺麗な酸が育まれます。
テロワールと葡萄の個性を最大限に表現する事に重点をおき、極力、人的介入は抑え、ワインを支配することなく、自然のまま、ワイン作りに取り組んでいます。またワイナリーは、ブシェンシャンク(シュタイアーマルク州で見られる、自家製ワインと素朴な地元料理を提供する伝統的なワイン酒場)とゲストハウスを併設しており、コーグルのワインと地元食材を使用した料理が楽しめ、ツーリストの宿泊拠点に出来るよう、家族一同で切り盛りしています。
ラベルに隠されたストーリー
Köglは、ワイン名やラベルにもストーリーを持ち合わせています。
ラベルについては、元々、彼女の哲学を表現できるようなデザイナーを探していましたが、自分自身で手掛ける事を決めました。そうすることにより、ワインを通じてだけではなく、彼女自身の考えやこうした小さな芸術作品を通じても、自分としての考えを表現できると考えました。
基本、スティルワインには、リノカット(リノリウムという柔らかい素材を版にして彫る、凸版印刷の版画技法)が描かれています。(個々のデザインに意味を持ち合わせていますが、各ワインにてご紹介します。)印刷会社に依頼するのではなく、全て手作業で制作され、それぞれのラベルは小さなオリジナル作品となっています。
ペットナットのラベルに使用されているラベルがカセットテープとなっている理由は、彼女の"flow moments"(時間が経つのも忘れて目の前のことに完全に没頭している最高の体験の瞬間のこと)の経験から由来しています。
また彼女はワインをテイスティングする際、味わいを「人柄」や「個性」に例える事が多くあります。
彼女は初めて手掛けたペットナットを試飲した時、Queenのフレディ・マーキュリーを連想しました。彼女はQueenの音源を全てカセットテープで持っていた為、直ぐにテープを聞き始めました。そして、名曲“Under Pressure”が流れた瞬間、直観的にこれだ!と思い、この曲名をワイン名として使用しました。それが由来となり、ペットナットのラベルは全てカセットテープのラベルを使用しています。
数年後、ロゼ・ペット・ナットを造ったのですが、軽やかさと喜び、そしてちょっとした遊び心を表現できる名前にしようと思っていたのです。
それで、R.E.S.P.E.C.T.にしました。気さくでありながらも、真剣でもあります。
ペットナットを造る理由は、単純に自分自身がスパークリングワインが大好きだからです。
わたしの造るペットナットは、
・ドライで深みと個性があること
・エレガントで持続性のある泡立ち。開栓後、2-3日経っても生き生きとした泡がつづきます。
・ワインは若干濁った外観をしていますが、開栓する際に、泡が過剰になることはありません。最初のグラスから最後のグラスまで、一貫した品質と繊細な口当たりをお楽しみいただけます。
直感から紡がれたワイン
ここまで読み進めてくださった方であれば、タマル・コーグルさんは、自身の言葉になる前の感覚やひらめきというものを大切にしながら、ワイン造りに取り組んでいることがわかります。
2013年から有機栽培を始めて、2018年からビオディナミ農法に転換しているのですが、彼女がビオディナミ農法に取り組むことになったのも、自然の成り行きのようにも思えます。
なぜなら、彼女は、ビオディナミ農法を実践するようになったのは、目に見えるもの以上に、人生には深い意味があると信じているからです。
土壌というのはその好例で、地中では何が起きているのか、わたしたちの目には容易に見れませんが、そこには一つの生き生きとした世界が広がっていることがわかっています。
年が異なれば生育条件も異なり、その土地に生息するすべての生命に影響が及びます。どの生命もそこにある資源を最大限利用して、相利共生や食物連鎖という形で関連しあいます。
わたしたちは、目には見えないものと共に働き、影響を与えあっているのです。ビオディナミ農法を採用している方々は、その方法を完全に理解してから取り組むというよりも、不完全な理解であったとしても、自分達の仕事によい影響を与える方法だと思って取り組んでいます。
それは、自分たちが心を開き、自然を注意深く観察し、自然の複雑さを尊重するよう、後押ししてくれるものです。
目に見えないけれど、感じ取ることのできる世界がそこにある。
彼女が常に優先しているのは、ワインの味わいそのものです。彼女はクリーンな発酵を確実にするために、発酵前のジュースにSO2を10mg/l加えています。
ワインに時間が必要であれば時間をかけますし、酸素が必要あるいは減らすべきならそうします。どのワインを造るのにも同じレシピに従うのではなく、そのワイン自身のニーズに合わせて扱う必要があるのです。
ワインが微生物学的に安定している場合、発酵が終わり残糖がなく、マロラクティック発酵も完了している場合は、ろ過をせず瓶詰めすることができます。
もし、まだかなりの量の残糖が含まれている場合は、瓶内での再発酵を避けるために濾過を行います。
硫黄についても同様です。微生物の増殖を抑えるために、ワインには必要な分だけ加えます。
重要なことは、すべてのワインが安定した状態でセラーを出ることです。その瞬間から、ワインの唯一の役割は、優雅に熟成することになります。
タマラさんが理想とするワインは3つの考えから成り立っています。
Emotion / 感情:何か新たな気持ちを呼び起こすワイン。ただ美味しいだけでなく、記憶に残る、感情を揺さぶるワイン。